1月27日






昨夜、レストランで食事をしていると日本人の青年がアラビア語のビラを配っていっ た。
そのビラを読むイラク人の顔が険しい。慌てて一枚手に入れ、内容を通訳しても らった。とても長い文章なのでここで全てを紹介できないが、「自衛隊が人道支援をするのは良いが、武器を持ってイラクに来てしまった。これは日本が1940年代に 戻ることを意味する。また、今回武器を持ってきたことによって、次回はまたエスカ レートしてしまう。。。」


自衛隊の派遣に反対するのは全くかまわない。僕自身、武 器をもっての人道支援には反対だ。しかし彼がイラク人に配ったビラは日本の国内問 題だ。しかもこのビラの良くない所は「日本政府」と「軍隊」と言う言葉が使われて しまっているところだ。

ビラを読んだイラク人は日本政府のコメントと勘違いする事 さえあるだろう。殆どのイラク人が嫌な顔をした。薄っぺらいただの紙だが、この紙 はかなりの驚異を持ったテロになりうる。

そして今日の朝、自衛隊の朝のミーティン グで彼が現れ、広報の福田さんに昨日のビラを手渡した。この行為は良いと思う。日本でどれだけ自衛隊の派兵反対!と叫んでも自衛隊はとめられない。直接イラクまで 来て、自衛隊に手渡しするのは効果があるかもしれない。しかし、イラク人にビラを 渡してしまったことによって、今後、自衛隊だけでなく日本人全体の生命に危機が及 ぶ事を彼は理解しているのだろうか?彼が配ったビラの影響でマスコミ関係者や自衛 隊の人が命を落としたとき彼はどう責任をとるのだろう。



僕は9・11以降ずーっと 思ってきた、世界中の誰でも命の価値は同じだと。アフガニスタンの戦争で亡くなっ たアフガニスタン人、今
回のイラク人、攻撃に加わって若い命を亡くした米兵。みん なかけがえのない命だと思う。平和の為に憲法9条を守りたいと思う人
が、人の命を 危険にさらすような事をするのはナンセンスだ。

 朝のトラブルはそれだけでは終わらなかった。福田さんの方からやはり仮のプレス パスを発行するとい
う話がでて、M社が「自衛隊の宿営地の取材許可の為のパスでは なく、自衛隊の取材全般にパス
が必要だと言うのは問題だ」と発言した。確かにセキュ リティのことを考えるとパスがあったほうが良いのだろうが、プレスパスに様々な条 件が付加されてしまうのは問題だと思う。大手メディアだけで、フリーの人にはパス が発行されないのも困るし、良いことしか書けない状態を作られてしまうのも困る。

しかし現地にいる人にその責任をおしつけても仕方がない。また、現場にいる人たち はお互いの苦労も分かるし奇妙な一体感があるのも事実だ。


 今日は自衛隊の宿営地の工事が午前中にスタートするということなので、隊長さんの 取材は諦め、宿営予定地に行く。各社、両方とも取材しようとしたのか、宿営予定地 には誰もいなかった。


折角なので、予定地の近くに住む人にインタビューしに行く。 とてもいいおばさんがインタビューに答えてくれた。
女系家族で、旦那さんはイラン・ イラク戦争で亡くなってしまったそうだ。戦争が終わってナシリアから親戚を頼って サマワに来たそうだ。

「サマワの方が田舎なので暮らしやすいし、ここでひっそりと 暮らしていきたいわ。自衛隊に関しては
私たちに職をくれるなら大歓迎です」と話し てくれた。

そうこうするうちにメインの道路から宿営地に向かう取り付け道路の建設 が始まった。自衛隊の人も世間話なら応じてくれる。オフレコの話なのでここでは紹 介できないけど、自衛隊の人たちも1週間経ってようやく現地になれてきたようだ。

昨日、日本のメディアに対する攻撃予告があったと書いたが、日本のK社が狙われ たようだ。サマワにいる日本人達はK社がホテルとトラブルを起こしたために狙われ る羽目になったと言っていたが、どうもそれだけではないようだ。


というのも僕が来 る前にホテルとK社にトラブルがあったかどうかは噂程度しか情報がないが、僕がホ テルに入ったときのトラブルは詳細に説明できる。なんといっても僕もその原因の一 部だから。



 夜、僕が寝ていると、防弾チョッキとヘルメット姿の4人が部屋に入ってきた。何事? と思いきや、そのうちの一人が戦時中にお世話になったHさんだった。


僕はベッドか ら身を乗り出し「どうもどうも。お久しぶりです」と握手をした。「こんな時間まで 材ですか?」「いやーちょっと」とHさん。

実はK社が月末までリザーブしていた 部屋をホテルのオーナーが僕たちに又貸ししてしまっていたのだ。なんとも変な再会 になってしまった。

「まあまあ久保田さん達はいてください」。申し訳ないけど最悪 の場合は一緒に寝てもらうしかないかなー?と考えていると外で揉めている様子。僕 にも責任の一部がある?かもしれないので、出ていくと、ホテルのオーナーとK社が 揉めていた。K社からすれば、月末までリザーブしてあるし、お金も払ってあるのに なんで又貸しするんだ。というのが言い分。確かに日本であれば間違いなく通る話だ。 ホテル側は「お前達は他に家を借りたし、もう帰って来ないと思ったから貸したんだ」 。なんともアラブらしい感覚だ。



ともあれこの件でホテルのオーナーはK社をサマワ から追い出したいと、そんな文章を書いていた。それ故、このもめ事がK社に対する 攻撃予告になったとサマワにいるマスコミ各社は解釈してしまったようだ。しかし問 題は夜中に折角借りた民家からホテルに戻ってくる事になった原因だった。K社は借 りていた民家に対して不穏な動きがあるのを関知して、夜中にも関わらず緊急にホテ ルに移ってきたのだった。そうするとあのときの重装備が納得できる。(普通、夜は 余程の事が無い限り動かないのが常識)



今回、K社が借りた民家がたまたま狙われた が、日本のメディアであればどこでも良かった訳だ。情報、噂と言うのは本当に恐い。
近年、情報戦争などと言われることが多いが、一つの間違った情報で何人もの生命が 危険にさらされる事もある。今回一番の問題は情報が正しく伝わらなかったことだ。


サマワにいるマスコミは一方的にK社が悪いと思い込んでしまったし、中にはK社の 人間がホテルの人間を殴ってしまったと書いた報道もあるらしい。確かに僕が見てい て、胸に指を当てる位はあったが勿論、誰も殴ったりしてはいない。


もう一つはK社 がこの事件を封印してしまった事だ。K社の編集局長が外務省と協議した結果、その 後の取材便宜について脅しを受け、記事化せず、外務省危険告知記事で終わらせてし まったらしい。(これは僕の所に入ってきた情報で、事実確認は取れていませんので ご了承ください。なにせ僕の日記ですから)



 しかし、もしこれが事実なら大変な事になる。K社がちゃんと具体的な記事を書けば サマワにいるマスコミの多くの人たちが撤退を決めたかもしれない。もしもが起こっ てしまったら、情報を提供するマスコミ機関としてどう責任をとるのだろう。勿論、 外務省としては現時点でそんな情報を流されては自衛隊本隊の派遣に影響がでるとい うことで、K社を脅したのだろう。


確かに今後の事を考えると外務省(日本政府)を 敵に回したくないのは分かる。しかしこんな重要な情報が流せないのなら、今まで出してきたニュース、これからのニュースも信用できなくなってしまう。


たまたま今回 はK社だったが、恐らく日本の大手メディアならどこでも同じ対応になったと思う。 僕たちが日々生活する上で必要な情報。ましてや日本が大きな分岐点にさしかかって いる現在の重要な情報。


一体どうやったら僕たちは正しい情報を受け取れるのだろう。 どうやったら日本のマスコミが権力に負けずに正しい情報を流すことができるのだろう。