YesorNo


「突きつけられたYES or NO」
text by H.ITAKURA(ASIANEWS)


3月18日、我々アジアニュースの記者5名を乗せた車は、バグダッドの手前およそ70キロという地点で高速道路を降りた。
ファルージャ。スンニトライアングルの中に位置し、もっとも危険と称されるスンニ派の拠点となる街だ。
つい先日もアメリカの民間人4名が虐殺されたのもこの町である。

決して途中下車したくない町に我々が下りたのも、米軍が幹線となる高速道路を封鎖していたからだ。
ファルージャで米軍が何らかの軍事作戦行動を行う場合、この道路は封鎖される。周辺を包囲することでターゲットを閉じ込める。

下記の写真はビデオ映像からキャプチャーしたものです。


アンマンからおよそ3時間半〜4時間でイラクの国境へ。
国境から7時間程度でファルージャを通過する。この日も米軍の作戦中のため高速は封鎖。



まさかファルージャを通ることになるとは思わず、車内は緊張。誰も殆ど口を利かない。
運転手も焦りながら市内を早く抜けようとする。



高速を降りて10分で市内中心部に達する。途中には戦争時の破壊された軍事車両が未だ残る。
一見「普通」の生活が営まれる市内。やがて市内を抜け、再び高速道路に戻ることが出来た。
ここから1時間も走ると、もうバグダッドである。全部で10時間から12時間の行程である。






実はこの高速道路は一昨日より再び閉鎖されていた。アメリカの民間人の犯人検挙のための作戦を遂行することによる。
その為アンマンからバグダッドに向かう車両は、我々が通ったのと同じファルージャの市内を走破するルートを選択したことが充分に考えられる。

今回邦人3名もアンマンからバグダッドに向かう途中、ファルージャで拘束された、との情報が入っているが、恐らくこの迂回路の途中ではないだろうか。
バグダッド市内に限らずイラク全土において我々ジャーナリストは「ソフト・ターゲット」と称されることがある。
対するハードターゲットとは軍隊のこと。勿論日本の自衛隊も含まれる。
日本政府を困らせるのなら絶対にハードターゲットではなくソフトターゲットを狙って来るよね、とサマワで同業者たちと話していたが、それがついに現実のものとなった。

今年1月に入りイラク市民の目線が我々日本人に対しなんとなく冷たくなってきたのは感じていた。
現に1月には子供たちに投石をされている。
我々フリージャーナリストにとって戦場は決意で赴ける場所かもしれない。少なくとも「交戦相手」がはっきりしている。
しかし今のイラクは誰が「攻撃」してくるのか全く予想が付かない。今回の拉致事件の実行者の背景もはっきりしない。
イラクは決意だけではなく、覚悟が無くてはいけぬ場所となってしまったような気がする。
戦場、或いは紛争地という現場においてハイエナとさえ言われる我々ジャーナリストだけではなく、
個人的に支援を行っていた民間人が標的にされたことに悲しみと憤りを禁じえない。
平和国家日本で突如国民に突きつけられたYESorNO。もはや他国の出来事ではなく、我々日本国民全てに突きつけられた選択肢だろう。

(2004年4月8日)

ASIANEWS 板 倉 弘 明